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暗号資産は通貨になりうるか?ビットコインの現在地

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はじめに

2009年に誕生したビットコインは、これまでにない「非中央集権型の通貨」として世界中に衝撃を与えた。ブロックチェーンという分散型台帳技術を基盤とし、政府や中央銀行の関与なしに価値を持ち、移転可能な通貨という構想は、多くの人々にとって革新的であった。

一方で、それが本当に「通貨」として機能するのかについては、いまだに議論が尽きない。本稿では、「通貨」の定義に立ち返りながら、ビットコインおよび暗号資産が将来的に通貨となり得るのかを考察し、あわせてその現在地を探る。

通貨の三つの機能とは

経済学において、通貨には次の三つの基本的な機能が求められる。

  1. 価値の尺度(単位)

  2. 交換の媒介

  3. 価値の保存手段

まず「価値の尺度」とは、物やサービスの価値を測る基準となることである。円やドルといった法定通貨は、この基準として社会的に受け入れられており、価格表示に使用される。

次に「交換の媒介」としての機能は、物々交換を回避し、財やサービスの交換を容易にする役割だ。人々がその通貨を信頼し、広く受け入れていればこそ、この機能は成立する。

最後の「価値の保存」とは、現在の購買力を将来にわたって保持する能力である。インフレや信用リスクによってこの機能は弱まるが、一般的に安定した法定通貨はこの役割を果たしている。

では、これらの基準をビットコインや暗号資産に当てはめるとどうなるのだろうか。

暗号資産(仮想通貨)の誕生と発展

ビットコインは、ナカモト・サトシという匿名の人物によって発表された論文『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System』に基づいて開発された。その特徴は、中央管理者なしにインターネット上で送金や記録を可能にする点にある。ブロックチェーンという技術によって、改ざんが極めて困難な取引記録が実現されている。

その後、ビットコインに続いて多くの暗号資産(仮想通貨)が登場した。イーサリアムやリップル、ライトコインなどは、単なる通貨としての用途にとどまらず、契約自動化(スマートコントラクト)や国際送金といった応用が進められている。

しかし、その急激な価格変動や、投機対象としての性質が目立つ現状は、通貨としての機能に対して疑問を呈している。

ビットコインは通貨たり得るか?

では、通貨の三機能からビットコインを評価するとどうなるだろうか。

1. 価値の尺度としての機能

現時点では、価格の表示にビットコインが使われることは稀である。たとえば商品を「0.0007 BTC」と表示しても、日々価格が変動するため、消費者にとって分かりにくい。ビットコイン建てでの価格は、結局はドルや円に換算して理解されているのが現実であり、「価値の尺度」としての役割は限定的である。

2. 交換の媒介としての機能

一部の企業や店舗ではビットコイン決済が導入されているが、広く普及しているとは言い難い。日本でも2017年の資金決済法改正により暗号資産での決済が合法化されたが、利用者数は限定的である。さらに、取引の確定に時間がかかる(ブロック生成に10分程度)ことや、手数料の高騰などの課題が、日常的な決済手段としての普及を妨げている。

3. 価値の保存としての機能

ビットコインの価格は極めて変動的である。2017年の高騰と急落、2021年の過去最高値更新とその後の暴落などを経て、「価値の保存手段」としての信頼性は不安定だと言わざるを得ない。ただし、法定通貨が不安定な国(例:トルコ、アルゼンチン、ベネズエラ)では、むしろビットコインが購買力の保存手段として用いられる例もある。これは「デジタル・ゴールド」としての性質が評価されていることを意味する。

世界各国の対応と規制の現状

ビットコインが通貨となり得るかは、技術的な側面のみならず、法的・制度的な整備とも密接に関係している。

たとえばエルサルバドルでは、2021年にビットコインを法定通貨として採用した。この決断は大きな話題を呼び、一部の国では同様の動きも見られる。一方で、IMFや世界銀行はこうした動きに対して慎重であり、金融の安定性やマネーロンダリング対策の観点から懸念が示されている。

中国は一貫して暗号資産の取引やマイニングを禁止しており、自国のデジタル人民元(e-CNY)による主導権確保を目指している。他方で、アメリカは州ごとに規制が異なり、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)による法的解釈の食い違いが議論を呼んでいる。

日本では、金融庁が厳格な登録制度や資産分別管理を義務付けており、比較的先進的な規制枠組みが整備されている。

デジタル通貨の未来と中央銀行デジタル通貨(CBDC)

ビットコインが通貨としての要件を満たすにはまだ課題が多いが、その技術的インパクトは既存の金融機関や政府にも波及している。近年注目を集めているのが、中央銀行デジタル通貨(CBDC)である。

CBDCは、中央銀行が直接発行するデジタル形態の法定通貨であり、ビットコインとは対照的に「中央集権的」な設計がなされている。中国は既に実証実験を進めており、欧州中央銀行(ECB)や日本銀行、アメリカ連邦準備制度(FRB)も調査・研究を加速させている。

これは、ビットコインが提起した「インターネット時代における通貨とは何か」という根源的な問いに対する制度側からの応答とも言える。

おわりに

ビットコインをはじめとする暗号資産は、「通貨とは何か」という定義に新たな視座をもたらした。現在のところ、ビットコインが通貨の三機能すべてを果たしているとは言い難く、依然として「投機資産」としての側面が強い。

しかし、その背後にある分散型技術や新たな信用構造のあり方は、法定通貨や金融制度そのものに変革を迫っていることも事実である。今後、規制の整備、技術の進化、利用者の理解が進めば、暗号資産が一部の用途で通貨的役割を果たす可能性は十分にある。

最終的には、「通貨」そのものの意味が再定義される中で、ビットコインを含む暗号資産がどのような位置を占めるかが問われる時代となるだろう。

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