●ミクロ経済学とは?
「ミクロ」には「非常に小さい、微視的」といった意味があります。すなわち、小さな視点に立った経済学という意味になります。具体的には、個人や企業単位で経済を考えようという経済学です。
個人や企業の行動がどのように経済に影響を与えるのかを分析して、市場の論理を体系化します。ちなみにミクロ経済学では景気の変動や失業率などは除外して分析しています。あくまでも「需要と供給」などの市場メカニズム中心に考えます。
ミクロ経済学のポイントは2つあります。一つは「価格決定のメカニズム分析」と、もう一つは「資源配分」です。資源配分とは財(商品など)やサービスの生産や労働力などの経済資源を効率的に割り振ることです。
●価格決定と資源配分
これはいわゆる「需要と供給」の関係で説明できます。
・需要の法則
ある商品の価格が上昇すればその商品を欲しいと思う人は減るので需要量は減少します。また、商品の価格が下落すれば、欲しいと思う人が増えるので需要量は増大します。
・供給の法則
ある商品の価格が上昇すれば、供給者の利益が増えるので供給量は増大します。また、商品の価格が下落すれば利益が減るので供給量は減少します。
・均衡価格
需要量と供給量が一致したところがで決まる価格です。需要曲線と供給曲線との交点で示されます。理論上では売れ残りや品不足が生じない、適性な価格と考えられています。
・価格の自動調節機能
買い手と売り手が多数存在する自由競争市場のもとで、価格の上下変動を通じて、自動的に需要量と供給量が一致するように調節されることです。この作用によって財やサービスなどの資源の最適配分が達成されます。
a.価格が高いとき
消費者は買い控えすることになり、供給量に対して、需要量が少なくなります。このため、超過供給(売れ残り)が発生します。そのため、供給者は価格を引き下げて売りさばこうとします。最終的には均衡価格に落ち着き、超過供給は解消されるというわけです。
b.価格が安いとき
消費者の購買意欲が高まり、供給量に対して、需要量が多くなります。このため、超過需要(品不足)が生じます。そのため、供給者は価格を引き上げて利益を増やそうとします。こちらも最終的には均衡価格に落ち着き、超過需要は解消されるというわけです。
・神の「見えざる手」
古典派経済学者アダム=スミスの有名な言葉です。自由競争の市場では、誰が命令するわけでもないのに、無数の生産者による供給と、無数の消費者の需要とが自然とうまく調整されていることに対して、アダム=スミスは著書「国富論」のなかで、神の「見えざる手」が作用していると形容しました。
個人がそれぞれ利己的な行動をとったとしても、市場では自動的に需要と供給が調整されて、適性な価格に落ち着くという自由競争原理に基づいた、アダム=スミスの「自由放任主義」を象徴する言葉です。
・価格弾力性
ある物の価格が上下することによって、需要量にどの程度の影響がでるかという意味です。物価の変動によって需要量も大きく変化する場合は、「価格弾力性が高い」ことになります。
a.米などの食料や生活必需品…価格が下落しても、需要量は大きく変化しません。なので価格弾力性は低いといえます。
b.贅沢品(貴金属など)…価格が下落すると、需要量が激増する傾向にあるため、価格弾力性は高いといえます。
・需要・供給曲線のシフト
価格や取引量以外の要因が変化することにより、需要・供給曲線が元の位置から左右にシフト(平行移動)します。これにより、均衡価格や均衡数量が変化します。
①需要曲線のシフト
a.需要曲線の右シフト
需要曲線が右側に平行移動することにより、需要量の増加となります。
[増加の要因]
1.給与所得の増加、所得税減税などの家計収入の増加。
2.流行商品の登場による嗜好の高まり。
3.代替材(競合商品)の値上げ。(例としてA社の清涼飲料水の値上げを受けて、価格据え置きの、同じようなB社の商品の需要量が増加したなどが挙げられます)
b.需要曲線の左シフト
需要曲線が左側に平行移動することにより、需要量の減少となります。
[減少の要因]
1.給与所得の減少、所得税増税などの家計収入の減少。
2.流行商品の終了による嗜好の減少。
3.代替材(競合商品)の値下げ。(例としてA社の清涼飲料水の値下げを受けて、価格据え置きの、同じようなB社の商品の需要量が減少したなどが挙げられます)
②供給曲線のシフト
a.供給曲線の右シフト
供給曲線が右側に平行移動することにより、供給価格が下落し、供給量の増加となります。
[増加の要因]
1.原材料の下落、人件費抑制、技術革新などによるコスト削減。
2.法人税の減税。
3.技術革新による生産力向上など。
b.供給曲線の左シフト
供給曲線が左側に平行移動することにより、供給価格が上昇し、供給量の減少となります。
[減少の要因]
1.原材料の上昇、人件費増加、などによるコスト上昇。
2.法人税の増税。
3.天候不順や自然災害などによる生産量減少など。
●市場の形態
これまでは「完全競争市場」が前提で考えてきましたが、実際にはこれに当てはまらない「不完全競争市場」が存在します。以下の条件が満たされないと「完全競争市場」とは言えません。
〇多数の売り手、買い手が存在すること。
〇商品の品質・内容・価格について十分な情報があること。
〇同じ種類の商品は、全く同質のものであること。
〇市場への参入・撤退は自由であること。
・不完全競争市場
価格の自動調節機能が働かない市場を指します。具体的には少数の大規模企業が支配する「寡占市場」や、1社単独で支配する「独占市場」などです。
・寡占市場の特徴
a.管理価格
市場の中でも影響力の大きい大企業が「プライス=リーダー」(価格先導者)となって価格を設定し、他の企業がこれに追随することで、形成される価格です。需要が後退したり、生産コストが下がったりしても、価格が下がりにくい「価格の下方硬直性」の現象がみられます。
b.非価格競争
寡占市場では、各企業は利益率維持の為に、価格競争を避け、広告・宣伝、デザイン、品質、アフターサービスなどの価格以外の要素で商品の差別化を図ろうとします。
・独占の形態
市場の独占には大きく分けると3つの形態があります。
a.カルテル(企業連合)
同種産業の複数の企業が、独立性を保ったまま、価格・生産・販路などの協定を結ぶことです。
b.トラスト(企業合同)
同種産業の複数の企業が、独立性を捨てて合併することで、新しい企業を組織することです。
c.コンツェルン(企業連携)
親会社が各分野の企業の株式の所有などにより子会社化を通して、異種産業の複数の企業を傘下におさめて形成される企業集団です。
・市場の失敗
市場経済において、価格の自動調節機能が十分に作用せず、効率的な資源配分ができなくなることを「市場の失敗」と言います。以下のような例があります。
a.寡占・独占市場の形成
寡占市場や独占市場の成立により大企業が価格支配力を強め、価格が下方に硬直し社会全体の資源配分が効率よくできなくなってしまった場合。
b.外部不経済の発生
「外部不経済」とは企業や消費者の行動が、他の経済主体に不利益を与えることをいいます。
典型例としては大気汚染や工場排水などの「公害」があります。公害が発生するとそれを除去するための費用が生じ、そのために自治体なのどの税金が使われてたりします。これも資源配分阻害の原因となります。
c.公共財・公共サービスの供給
道路、公園、警察など、利用しても料金の支払いが発生しない、公共財・公共サービスは市場に任せていては供給されにくいものです。なので政府や地方自治体が供給していく必要があります。
・独占禁止対策
大企業と中小企業との対立や独占を防ぎ、自由な競争の促進を目指すのが独占禁止対策です。
a.独占禁止法
市場の独占や、不当な取引制限(カルテル)、不公正な取引方法を禁止する法律です。
b.公正取引委員会
独占禁止法の目的を達成するための行政機関です。違法カルテルや過大景品に対する排除命令、課徴金などの措置もできます。
●まとめ
人間の心理や行動が、どのように経済活動に影響を及ぼしているか、また企業はどのようにして利益を上げようとしているのか、個々の活動を分析することで経済の仕組みが見えてきます。
例えばスーパーやコンビニで買い物をする時でも、価格がほぼ同じ類似商品を比較して、どちらを購入するか考えますよね。そこには消費者と供給者との意外な駆け引きあったりするのです。
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