●マネーサプライとは?
直訳すれば「通貨の供給」となります。簡単にいうと「市中に出回っているお金の量」のことです。ただし、政府や金融機関が保有している現金は含まれません。ということは、一般国民や企業などが保有しているお金の量を指します。「マネーストック」とも言います。
●マネーサプライの定義
一口にお金といっても現金、預金など種類がありますが、マネーサプライでは以下の4種類の指標を定義しています。
・M1(エムワン)
手元にあるお金(紙幣と硬貨)と以下の金融機関に預けている5つの預金(以下参考)の合計です。
M1=手元にあるお金+以下の金融機関に預けている以下の預金
〇日本銀行、国内銀行、外国銀行在日支店、信用金庫・信金中金、農林中央金庫、商工組合中央金庫、ゆうちょ銀行、農協・信農連、漁協・信魚連、労金・労金連、信用組合・全信組連
〇当座預金、普通預金、通知預金、別段預金、納税準備預金
・M2(エムツー)
M1と違うところは、1つ目に預金している金融機関の数が減ることです。ゆうちょ銀行などの金融機関を除いています(以下の青字が省かれる銀行)。そして2つ目は、M2ではM1の預金に加えて、定期預金や外貨預金や譲渡性預金など全ての預金を含みます。
M2=手元にあるお金+以下の金融機関に預けている以下の預金(以下の青字の部分を除く)
〇日本銀行、国内銀行、外国銀行在日支店、信用金庫・信金中金、農林中央金庫、商工組合中央金庫、ゆうちょ銀行、農協・信農連、漁協・信魚連、労金・労金連、信用組合・全信組連
〇当座預金、普通預金、通知預金、別段預金、納税準備預金、定期預金、外貨預金、譲渡性預金
・M3(エムスリー)
M1と預金している金融機関は同じで、M2と預金の種類は同じです。このM3を日銀(日本銀行)では代表的な指標としています。
M3=手元にあるお金+以下の金融機関に預けている以下の預金
〇日本銀行、国内銀行、外国銀行在日支店、信用金庫・信金中金、農林中央金庫、商工組合中央金庫、ゆうちょ銀行、農協・信農連、漁協・信魚連、労金・労金連、信用組合・全信組連
〇当座預金、普通預金、通知預金、別段預金、納税準備預金、定期預金、外貨預金、譲渡性預金
・広義流動性
M3に加えて、金銭信託や投資信託、国債や社債など広い意味で流動性のある換金対象物を含めたものです。「広義流動性」では全預金取扱機関に加え、保険会社なども対象となります。
〇日本銀行、国内銀行、外国銀行在日支店、信用金庫・信金中金、農林中央金庫、商工組合中央金庫、ゆうちょ銀行、農協・信農連、漁協・信魚連、労金・労金連、信用組合・全信組連、保険会社、非移住者、政府
〇当座預金、普通預金、通知預金、別段預金、納税準備預金、定期預金、外貨預金、譲渡性預金、金銭信託、投資信託、国債、社債
●マネーサプライとマネタリーベースとの関係
「マネタリーベース」とは世の中に流通している貨幣(硬貨と紙幣)、そして市中銀行が支払準備金を預け入れている日銀当座預金残高を合計したものです。
教科書的にはマネタリーベースが増加すると、マネーサプライも増加するといわれています。これには「信用創造」が関わっています。信用創造とは初めに預けた預金がどんどん膨らむ仕組みです。
例えばX企業がA銀行に100万円を預金したとします。A銀行はその100万円のうち一定の割合(支払準備率)を日銀に預けなくてはなりません。これを支払準備率と言います。例えば支払準備率が10%だとすると10万円を日銀に預けます。
そして今度はA銀行は残りの90万円をY企業に貸し出します。Y企業はその90万円をB銀行に預け入れるとします。そうするとB銀行は90万円の10%(9万円)を日銀に預け、残りの81万円をZ企業へ貸せます。このような貸し出しと預金を繰り返すことでどんどん預金総額が増えていくのです。X企業が100万円、Y企業は90万円の預金を保有していることになり最初の100万円が190万円になっています。最終的には以下の公式まで預金総額は増えます。これが信用創造です。
預金総額=初めに預金した金額÷支払準備率
近年のマネタリーベースとマネーサプライの金額は以下の通りです。
①2010年11月
99兆1886億円(マネタリーベース)
1078兆6221億円(マネーサプライ)
貨幣乗数10.87②2012年11月
124兆4449億円(25.4%増)(マネタリーベース)
1126兆3838億円(4.4%増)(マネーサプライ)
貨幣乗数9.05③2014年11月
259兆3603億円(108.4%増)(マネタリーベース)
1199兆6857億円(6.5%増)(マネーサプライ)
貨幣乗数4.63④2016年11月
417兆6573億円(61.0%増)(マネタリーベース)
1273兆8390億円(6.2%増)(マネーサプライ)
貨幣乗数3.05※貨幣乗数
マネタリーベース1単位に対し、何単位のマネーサプライを作り出すことができるかを示したものです。マネーサプライ÷マネタリーベースで求められます。
貨幣乗数と効率よく信用創造が出来ているかの指標ですが、年々減少傾向にあります。マネタリーベースの増加率に比べて、マネーサプライの増加率はかなり低い数値です。
2016年度は前年度から61%もマネタリーベースを増やしたのに対して、マネーサプライは6.2%の増加しかありません。確かにマネーサプライは年々増加はしてはいますが、微増といったところです。
●マネーサプライが増えない理由
簡単に原因を探ると「信用創造」がうまく機能していないと考えられます。すなわち、銀行が民間に十分に貸し出しできていない、企業や個人からも貸し出し需要が少ないなどの原因が考えられます。
しかし、日銀の当座預金に置いておいても金利は僅かですし、銀行としても活用できる資金があるのに運用しない手はありません。そこで国債などの債権購入に使っている可能性があります。それを更に日銀の金融緩和政策で、市中銀行から日銀が国債を買い上げているわけです。
実際に市中銀行の国債保有残高は2016年に100兆円を割り込み、逆に2017年の日銀の国債保有残高は約358兆円に上ります。この数字は同時期の国債発行残高の4割を占め過去最高となりました。市中銀行は日銀の当座預金残高から国債を買い、短期間で日銀に売り渡して利益を得て、また当座預金に入れているいう構図が見えてきます。
マネタリーベースを増やしてマネーサプライを増やすつもりのはずが、国債購入に多く使われれば、日銀の大量の国債保有も関係して、結局政府のお金になってしまいます(政府のお金はマネーサプライに入らない)。また、市中銀行としては民間に貸付けするよりも、日銀に国債を買ってもらったほうが簡単に利益が得られることになります。これでは、銀行は良いとしても、企業や個人にお金が回ってこない原因となります。
●まとめ
マネタリーベースをいくら増やしても、民間への貸し出しにお金が使われないと、マネーサプライは増えていかない仕組みになっています。デフレが長く続く現状では、企業の設備投資や、個人の借入金を増やすのも難しい状況です。既成の概念にとらわれない新たな政策が必要な時期にきています。
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