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インフレターゲットとは何かを解説します

 

 「インフレターゲット」とは中央銀行(日本の場合、日本銀行)がインフレ率(物価上昇率)を何%にするかの目標を設定することです。中央銀行は、この目標値に向けて金融緩和政策を行います。

 この説明だけでは少し分かりにくいので、詳しくかみ砕いて説明していきましょう。

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インフレとは

 インフレとは、「物やサービスの値段が上昇している状態」のことをいいます(反対に、物やサービスの値段が下降している状態のことを、デフレ(デフレーション)といいます)。

 物やサービスの値段が上がるということは、言い方を変えると「お金の価値が下がっている」ともいえます。今まで100円で買えたものが、150円になるということは、その商品が高くなったともいえますし、「100円の価値」が下がったともいえます。

 インフレは通常、経済が成長しているときに発生すると考えられています。経済が活性化していると、物やサービスがよく売れるため、需要(消費)が供給(生産)を上回ります。それにより、物やサービスの値段は引き上げられていくからです。このような現象を「ディマンド・プル・インフレ」と呼びます。

 一方、経済の活性化状況に関係なく、賃金や原料の価格が高騰することで、物やサービスの値段が引き上げられることもあります。例えば、外国から輸入する原油価格が高くなることで、それを原材料としている物の値段が高くなることは過去に何度もありました。このような現象を「コスト・プッシュ・インフレ」と呼びます。

 景気が悪いときはデフレが起きており、景気が良いときはインフレが起きていることが多いため、インフレに良い印象を持っている人も多いかもしれません。

 また、世界の歴史には極端に大きなインフレが発生することによって、経済に大きな混乱をきたした事例があり、インフレに対して悪い印象を持っている人もいるかもしれません。

 しかし、インフレ自体は「物価が上がっている状態」を指すだけの意味ですから、良い/悪いと一概に説明されるものではありません。

 「適正な範囲に収まるインフレを目指すべき」と説明されるべきものなのです。

なぜインフレターゲットが必要なのか

 インフレターゲットとは、インフレ率(前年度と比較した物価の上昇率)の数値目標のことです。元々インフレターゲットは、過度のインフレ状態にある国々が導入するものでした。

 例えば急激なインフレのことをハイパーインフレと呼びますが、この状態にあると手持ち資金の価値が急激に下がってしまい、経済に大きな混乱をもたらしてしまいます。このような混乱を予防するため、「緩やかなインフレ状態に抑えること」を目的にインフレターゲットが設定されてきたわけです。

 しかし近年はデフレ脱却の方法としてインフレターゲットを設定する国もみられるようになりました。

政府や中央銀行は何をするのか

 インフレターゲットを達成するために、政府や中央銀行は何をするのでしょうか。

 政府が行う政策を「財政政策」といいます。

・公共事業などを通して政府が民間に対するお金の支出(歳出)をコントロールすることで、民間に流れるお金を増やしたり減らしたりするもの。

・主に税収(歳入)をコントロールすることで、民間に流れるお金を増やしたり減らしたりするもの。

 インフレを抑制するためには、歳出を減らし歳入を増やす「緊縮的財政政策」がとられます。逆にインフレを促すためには、歳出を増やし歳入を減らす「拡張的財政政策」がとられます。

 中央銀行が行う政策は「金融政策」といいます。

・金利を変動させることで、市場を活性化したり抑制したりするもの。

・銀行を通して民間に流れるお金を増やしたり減らしたりするもの。

 インフレを抑制するためには、金利を上げたり流通するお金を減らしたりする「金融引き締め政策」がとられます。逆にインフレを促すためには、金利を下げたり流通するお金を増やしたりする「金融緩和政策」がとられます。

日本のインフレターゲット

 健全なインフレ率は2~3%といわれており、G7各国のインフレ率は次のグラフのように推移しています。

 日本以外は0~4%を推移しているのに対して、日本だけが1999年~2005年に継続的なデフレを経験しています。この頃、日本では「物価の安定を数値で示すことは適切ではない」としてインフレターゲット等の定量的目標値を設定しない立場を取り続けていました。

 しかし2006年から日銀は立場を変え始めています。2006年には「中長期的な物価安定の理解(understanding)」を発表し、2012年には「中長期的な物価安定の目途(goal)」を発表しました。この時点では、「目標(target)」ではなく「目途(goal)」という表現をしているように、インフレターゲットに対して否定的な見解が残っていましたが、2013年には2%という明確なインフレターゲットを決定するに至りました。

 なお、グラフを見ると、2008年と2014年にインフレ率が一時的に高くなっているように見えますが、これは実質的にはインフレが起きていたわけではなく、原油価格の上昇(2008年)や消費税増税(2014年)などが原因で、前年度対比の物価が高くなったものでした。いずれも、コスト・プッシュ・インフレであり、景気が回復したわけではなかったのです。ですので、まだインフレターゲットの目標は達成できていません。

 景気が停滞する中でインフレが起こることをスタグフレーションといい、これが継続すると日本経済の本格的な危機に陥ることになります。インフレターゲットを設定することに否定的な専門家の多くは、インフレ率という数字のみを追いかけることでスタグフレーションになるのではないかと恐れています。そうならないように政府や中央銀行が適切なコントロールをする必要があるでしょう。

まとめ

 インフレターゲットは、インフレを抑制する目的だけでなく、デフレから脱却する目的でも設定されることがあります。日本ではデフレから脱却するために、2%というインフレターゲットを2013年に発表しました。

 しかし、不況時にインフレ率の上昇を目的に政策を打つことで、全体的な経済活性化がされずに物価だけが上昇するスタグフレーションに陥ることを懸念する声もあります。もちろんインフレターゲットに対して肯定派も多くいますので、何が正解かは誰もわかりません。

 今後はあなた自身で、様々な政策が物価にどのような影響を与えるのかをよく捉えていくと良いのではないでしょうか。そうすることで、毎日の政治経済ニュースが楽しくなるかもしれませんね。

[参考記事]
「量的金融緩和とはどんな金融政策なのか。その効果は」

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